「バレンタインの雪」6
1 アレン「あー、よかった。やっと見つけた。
いいのは殆ど売り切れてて、危なかったよ。
これならビターだし、神田、喜んでくれるかな?
早く帰らないと、神田に不信がられるし」2 クロス「フン、今日はまともな格好だな」
アレン「し、師匠!! えっ!! あの、どうしてまたこんな所に!?」
クロス「俺が街をうろついてたら変か?」
アレン「い、いえ、そんな事ないですけど…。
師匠って夜型だから、こんな朝早くいる訳ないって」
クロス「それで安心して気を抜いていた訳か。
昨日も思い切り引きつった顔で無視しやがって。
恩人にいい態度だな」
3 アレン「……。
恩人だからって、あんな請求書回すのどうかしてると思います。
師匠の家の購入明細見た時、手が震えましたよ。
ワインセラーって何ですか。造ったんですか」
クロス「別棟にな。家に置いとくと味が落ちる」
アレン「…………。
自分で買えるくせに何で僕にいっつもツケを回すんですか?
師匠は恩人だからって、厚かましいですよ」
クロス「弟子のものは弟子のもの。俺の物は俺のものだ」
アレン「師匠」
クロス「…お前なぁ、ホントに解らないのか。理由が」
アレン「…え?」
4 クロス「新婚生活で惚けたか何かか。
昔のお前はもう少しピリッとしてたぞ」
アレン「…神田みたいな言い方止めて下さい。
そんなに僕って勘が悪いですか?」
クロス「ああ、悪い。あの時、壊れたついでに、惚けたんだな。
ふー、面倒臭い。ちょっと来い」
アレン「え、何ですか? 師匠、待って下さい!」5 クロス「こんなカフェじゃなくて、もっと大人の店は知らないのか、お前は」
アレン「午前中からやってるパブは、この街にはないですよ。
学生都市なんですから!」
クロス「しけた街だ」
アレン「…なのに、引っ越してきた理由は何ですか?」
クロス「俺がお前に請求書を回す理由と同じだ。
まぁ、そういう事にしておく」
アレン「そういう事にしとくって…他に理由が?」
クロス「俺が何でお前に理由を全部教えないといかん?
前にも言ったな。弁護士は言質を取られるな」
アレン「師匠の場合だと勘ぐりたくなります」
クロス「今、解らない奴が考えても無駄だ。
しけた街だが、料理はましなようだな」
アレン「神田の造った方がもっとおいしいですよ」
クロス「お前の亭主にも一度会うつもりだ。
いい加減、その心づもりをしておけ」6 アレン「…僕が止めても会うんでしょうね」
クロス「そうだ。
お前は忘れた、いや、忘れてる振りをしてるかも知れないが、
これが俺の仕事だからな。
とっくにクリスマスは過ぎてるんだ。もう2月。
3月までは待ってやる。
俺と来るか来ないか、それまでに決めろ」
アレン「……!!!
だから、ですか? 僕に請求書を回したのは!」
クロス「今頃、解ったか。金に無頓着なお前でも、すぐ気づくと思ったがな。
いいか、お前は『ただの』学生じゃない。いい加減『休暇』も楽しんだろう。
亭主に全部打ち明けるか、それとも…。その先はお前の領域だ。
俺が決める事じゃない。俺は期限を示すだけだ」
アレン「……………、だからってー、家を購入したのはやりすぎです、師匠!」
クロス「手数料だ」
アレン「あれが手数料ですかっ、悪徳弁護士!?」
クロス「手ぬるいくらいだ。お前は一応、弟子だから加減してやったんだ。
感謝しても当然だろう」
アレン「誰が感謝なんて!?」
クロス「期限は3月だ、忘れるな」
アレン「……………。
…、あっ、レシート!しまった、また、たかられた…」
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