『お月見』
1 アレン「外は満月でロマンティックですよ。お月見しましょうよ」
神田 「浴衣、結構似合うじゃねぇか」
アレン「神田の方がステキですよ。やっぱり日本人ですね。
着付けてくれてありがとうございます」
神田 「あんな格好(参・本館「気づかないと気づけない恋だから」)は
二度と見たくねぇからな」
(あれはあれで前衛的でかわいかったがな)
アレン「…でも、本当に浴衣の時ってパンツも脱ぐんですか?
何かスースーして恥ずかしいんですけど」
神田 「ふんどしをイヤだと言ったのはお前だぞ?」
アレン「………だって、何だか変なんですもん、アレ。
いいんです。二人だけだし」
神田 「意味深だな」
アレン「え!? あっ、そんな意味で言ったんじゃないですよ?」
神田 「いいぜ、そういう事にしといてやるよ」
アレン「もう、神田ったら!」
電話が鳴っているのも無視してあつーいキスを交わす二人です。
2 アレン「お団子おいしそうですね。まだ食べちゃダメですか?」
神田 「ロマンティックだから月を見ようと言ったのは誰だ」
アレン「え〜いいじゃないですか」
(早くお団子食べたいよ)
二人きりの庭は静かです。鈴虫やこおろぎが草むらでそっと鳴いています。
アレン「……静かですね。
もうすっかり秋なんだなぁ。
今日は「中秋の名月」っていうんでしょ?
日本人て、いいな。こんな風習があって。
この後、どんな事をするんですか?」
神田 「何もしない。
ただ月を眺めるだけだ」
アレン「……何も?」
神田 「祭に何かするのが西洋だが、日本は違う。
それにこれは祭りじゃない。
季節の節目を祝い、月を愛でる儀式みたいなもんだ。
俺にもうまく言えないけどな。
櫻を見て、飲んで騒ぐのも、
紅葉見て、弁当を食べるのも、
お前みたいに月を見て団子を食うのもいい。
でも、俺は月をただ眺めて、
色んな事に想いをはせる夜があってもいいんじゃないかとおもう」
アレン「……………それって何だかステキな事ですね。
だから、東洋人の思想って哲学的なのかな?」
神田 「さぁな。
俺は美しいものを前にして、あれこれ騒ぐのが嫌いなだけかもな」
3 風が吹いて、アレン、ちょっと震える。
神田 「どうした、寒いのか?」
アレン「え? ええ、ちょっと」
(下着履いてないからなんて、ロマンティックじゃないよね 汗)
アレンたんの方へにじりよる神田。
4 神田 「綺麗な月だな」
アレン「ええ」
神田 「月の下だと、お前の髪は一段と映えるな」
アレン「神田の方こそ月の精みたいですよ。
本で読みました。
日本じゃ月の精を「月読」って呼ぶんですってね。
神田みたいに綺麗な長い黒髪の男の人でした。
月の精なのに黒髪なんてと、その時は思ったけど、
神田を見てると何だか納得します。
神田は月みたいだ。
冴え冴えと美しくて、白くて、遠くて、決して触れないものだって。
でも、今は僕の側にいてくれる」
神田 「モヤシ……俺は月なんかじゃねぇよ」
アレン「ええ、月はこんなに暖かくないですよね」
5 神田 「モヤシ・・・」
アレンたんの肩を抱き寄せる神田。
月夜だから狼に変身しようとしているのでしょうか?
神田 「こうしたら、暖かいだろ?」
アレン「……………」
神田 「どうした?」
アレン「あの……僕、浴衣1枚でしょ?
だから、直に神田の体温が伝わってきて、その……。
温泉での事とか、色々思い出してきちゃって」
神田 「…………バカ」
アレン「すいません…」
神田 「でも、俺もだ」
アレン「え?」
神田 「夜気が冷たいせいかな。
お前のぬくもりが欲しくなってきた」
6 神田 「オレは団子よりお前が食いたい」
アレン「どうぞ。でも、その前にお団子食べてもいいでしょ?」
余裕のアレンたん。
じらすテクニックを身につけるようになりました(笑)
7 神田 「いいぜ。夜は長い。腹ごしらえしとけ」
アレン「ええっ、一晩中ヤる気ですか?」
8 神田 「不満か?」
アレン「受けて立ちますよ」
そっと重なる唇にしばし虫の声も月の美しさも忘れてしまいます。
9 アレンたんのために横笛を吹く神田。
神田 「今夜は特別だ。お前のために一曲吹いてやる」
アレン「………綺麗な音色ですね。
何て曲なんですか?」
神田 「知らない。……でも、俺の好きな曲だ」
アレン「………養父もよく僕の為にバイオリンを弾いてくれました。
バイオリンとナイチンゲールが夜の草原の中で互いに鳴き交わすんです。
とてもステキでした。優しくて、月が綺麗で。
あの夜を何だか思い出します」
神田 「………そうか」
アレン「今も神田が吹いてる時は、虫も静かに鳴いてましたよ。
きっと笛に聞き惚れてたんでしょうね。
本当に月読が横笛を奏でてるみたいで。
お願いです。もう一度吹いてもらえませんか、僕の為に?」
神田 「いいぜ。お前のためにな」
少しばかりの雲が藍色の夜空を流れていくばかりの空を、
白々と美しい貴公子が一人渡ってい夜。
神田の横笛は細く静かに美しい音色を奏で続けていた。
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