『縁日』1
1 二人は神田の父 睦月の紹介で日本家屋に引っ越しました。
生活も落ち着いたある日の事。
アレン「ただいまー。神田、います?」
神田 「何だ? 縁側に廻ってこい」2 アレン「神田、神田。近所の神社で縁日があるんですって。
ラビから今、聞いたんです。面白そうですよ。
行きませんか?」
神田 「興味ねぇな。人混みは好きじゃねぇ」
アレン「そんな事言わずに。一杯屋台もあるんですって。
僕、綿アメとか食べてみたいなぁ」
神田 「お前の目当てはそっちだろ?
大体、お前、日本の神社の詣で方とか知ってんのか?」
アレン「知りませんよ。
だから、神田に連れてって欲しいんじゃないですか」3 アレン「それにね、僕、旅芸人だったでしょ?
自分が参加する側になった事ないんです。
お客さんで行くのって、どんな気分かなぁって」
神田 「……………。
大した事ねぇから期待し過ぎんなよ。
おら、ぐずぐずしてんな、モヤシ 」
アレン「はいv」4 アレン「あ、ラビ、こんばんは。もう来てたんですね」
ラビ 「あ、アレン。やぽー、会えてよかったさー。
人混み凄ぇもんな。
浴衣姿。すっげぇかわいいー。超似合うさ。
もう神社は参ったの?」
アレン「いえ、これからです。
凄いにぎやかですね。いい匂いするし。
ちょっと廻ってからにしようかな」
ラビ 「いいじゃん。おごるさー。こういうのまともに廻った事ねぇんだろ?」
アレン「ええ、だからとっても楽しみで」
ラビ 「たこ焼きってアレン知ってるさ?」
アレン「いえ、何ですか? たこの形のお菓子なんでしょ?」
ラビ 「ハハハ。そっかぁ。凄ぇさ。アレン、絶対びっくりするさ」
アレン「え、何ですか??」
神田 「…トイレに行ってる間に、俺の女房に色目使ってんな」
ラビ 「ユウ、おひさーv
ユウも浴衣、超色っぽいさー。やっぱ日本人は着物だね」
神田 「今日、学校で会っただろうが」
ラビ 「あれから、4時間も経ってれば、充分久しぶりだろ?
ねぇ、三人で廻らねぇ?」
アレン「いいですね。三人の方が楽しそうだし」
神田 「冗談じゃねぇ。お前はお前で祭りを楽しめ」
ラビ 「もうつれねぇの。
今晩はユウに華を持たすさー」
アレンに耳打ち(じゃ、アレンv また明日なー)アレン「あ、ラビ…!」
神田 「何だ?」
アレン「え? 何でもないです。またなって」
神田 「……………」
アレン「ホントですって」5 アレン「…一杯屋台がありますね。参る前に何か食べませんか?」
神田 「そんなの参ってからにしろ、モヤシ。
お前、やっぱり食い気ばっかりじゃねぇか」
アレン「そういう訳じゃないけど…おいしそうなんだもん」
神田 「後だ。後」
アレン (もう、ラビと話すと機嫌悪くなるんだからぁ)6 神田 「よく手を洗っておけよ。神様に詣でるんだから」
アレン「はい。これって聖水みたいなものですか?
額とかつけなくていいんですか?」
神田 「俺もそんなに詳しくねぇが、身を清めるって意味だけで、
その水に聖水みたいな効力はねぇと思う。
でも、その水を口つけて飲むとかは、水が穢れるから絶対しねぇ」
アレン「穢れ、ですか?」
神田 「そうだ。日本の宗教は穢れを重要視する。
日本には神がそこらかしこにいる。みんなに一つ一つ宿っている。
この草にも、台所にも、厠にすら」
アレン「厠(かわや)?」
神田 「トイレだよ」
アレン「トイレ〜〜〜〜? だって、汚いでしょ?
それは穢れ、とかじゃないんですか?」
神田 「だから、清潔にする。それでいいんだ。
日本の神はキリスト教のように重くない。契約もしない。
粗末に使えば、祟るし、大事にすれば、 御利益がある。
日本は台風や地震など天災が多いからな。
自然を粗末にしたしっぺ返しの怖さを知っている」
アレン「…うーん、精霊や小人さんみたいなのかな」
神田 「俺も詳しくねぇからな」
7 アレン「じゃ、一番エライのは誰ですか?」
神田 「……うーん。天照大神か? よく解んねぇが」
アレン「アマテラ…長い名前ですね。何の神様です?」
神田 「太陽神だったと思う。日本は農業国だったから」
アレン「じゃ、ここの神社の神様は?」
神田 「さぁ…知らねぇな。でも、祈っておけば御利益あるだろ」
アレン「……あきれた」
神田 「何が」
アレン「だって、何でも知らない、知らないって。
日本人は神様について何も勉強しないんですか?
教会とか日曜学校とかないんですか?牧師様や神父様は?
それでどうして平気な顔でいられるんですか? 」
神田 「神主や坊主はいるが布教はしねぇな。
日本は政治から宗教を切り離した。
冠婚葬祭と正月くらいしか神様と向かい合ったりしない」
アレン「…他の宗教みたいに、考え方の中心じゃないんですね」
神田 「そうだ。だからといって、何にも縛られない訳じゃない。
神様は何処にでもいる。そう感じてる。
だから、道を踏み外さずに済む」
8 アレン「よく解らないけど、だから、どの神様に祈っても、
願いは通じるって事なんですか?」
神田 「さぁなぁ。とりあえず敬っておけばいい」
アレン「…もう、神田って神経質なんだか、大雑把なんだか解りません。
それって余り敬ってないように聞こえますけど」
神田 「お前もそうじゃないのか?
お前は神様にすがってない。頼らない。一番じゃない」
アレン「…僕の大事な人の影響のせいでしょうね、きっと。
自分に一番大事な事があるって知ってしまったら、
神様の顔色なんてどうでもよくなるって事解ってしまったから」
神田 「俺もそうだ。俺自身に誓わなきゃ、お前を幸せに出来ない」
アレン「でも、それじゃ神様に詣でる意味ってないじゃないですか」
神田 「バカだな、神様に願う事なんか、いつだってそんなに変わらないんじゃねぇか?」
アレン「そうですねぇ…じゃ、一緒にお願いしましょうか」
神田 「ああ」
アレン(神田を幸せにして下さい)
神田 (こいつを幸せにしてくれ)
アレン「何て、お願いしました?」
神田 「言うだけ野暮だろ」
アレン「そうですねv」
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