「バレンタインの雪」7
1 帰宅して、椅子で膝を抱えるアレンたん。
アレン(…そっか、師匠が来たのはそういう事だったのか。
あんまり今まで幸せで、夢みたいで忘れてたな。
いや、忘れようとしてた、師匠の言う通りだ。
最初、追いかけてこなかったから、見逃してくれたのかと安心してたけど
あの人がそういう人じゃないくらい解ってるべきだったよね、ティム。
ただ、普通の学生でいてもいい。別の人生を歩む時間があってもいい。
そんな時間をくれただけでも感謝しないとね。
けど、神田との結婚をどう思ってるのかな?
祝福もしなけりゃ、責めもしなかったけど、一番大切な事なのに、
ただ会うってそれだけ。
少しくらい何か言われると思ったけど、僕の自惚れだったのかな。
仕事の延長で僕を引き取ってただけなのかな。
…何か淋しいと思うなんて変だよね、ティム。
あんな身勝手でひどい人なのに、色々迷惑ばっかりかけるだけなのに、
今更、あの人の一挙一動が気になるなんて)2 アレン(僕ね、師匠と会うのずっと怖かったんだよ、ティム。
神田との結婚を許してもらえないんじゃないかって。
今更、やり直そうなんて甘っちょろい事言うなって。
だから、目を覚ましたくなくて、
神田の腕の中にずっといたくて、僕はうずくまってたんだ。
前に進む勇気も出せなくて。
今の幸せの中にだけひたっていたくて。
弱虫だって、意気地なしだって解ってるよ。
でも、もう一度壊れる事が怖かった。どうしてもダメだったんだ。
…そんな事の為に僕はマナに助けてもらったんじゃないのにね。
けど、3月…もう来月なんだ。決めなくちゃいけないんだ。
いつか来るって思ってたのに、やっぱり突然て感じだけど、
でも、望んでなくても終わりは来るんだ、どんなものにも。
……、だから、あんたに会いに行くよ、マナ。
僕の一番大切なあんた。
話したい事がたくさんあるんだ。あんただけに)3 アレン「神田、あの話したい事が…。
ありゃ、寝ちゃってる。
もうあんなにDVDいっぺんに見るからだよ」
(せっかく勇気出して来たのにな。
あのね、僕、この家、出るつもりですって)
「……………」
(…やっぱり言えないや。
絶対怒るもん。僕、うまく説明できる自信ないし、
神田の顔見たら、きっと泣き出してしまいそうな気がする。
腰砕けになって、また神田の腕の中でじっとし続けてしまいそうになる。
一番だらしなくて、ダメな自分を神田に見せてしまいそうな気がする。
神田に嫌われそうな自分を。
でもね、僕、師匠と一緒に行く事に決めたんだ。
マナに会う事に決めたんだ。
これだけは譲れないから、だから、もう少しだけ黙っている事を許してね。
バレンタインが終わって、3月になったら、僕はこの家を出ていくよ。
僕は『あそこ』に帰るんだ。
だから、それまで神田に嫌われたくない。
どうしてもイヤな思いで出ていきたくないんだ
だから、言えない。ごめん、言えないや、どうしても)
4 アレン(神田の寝顔って大好きだったな。
すぐ照れるから、言えなかったけどね、
神田の好きな所一杯あって 数え切れなくて、
毎日もっともっと好きになって、結婚してもまだ足りなくて、
そんな自分が不思議で、そして幸せだった。
全部、忘れられるくらい。
全部、消えてしまったくらい。こんな自分でもやり直せるんだって、神田が教えてくれたんだよ。
幸せでいていいんだよって。だから、気づかないでいてね。
僕がいなくなっても大丈夫でいてね。
元気でいてね。
遠く離れても、怒ったり笑ったりしててね。
それなら、僕も元気でいられるから。
この勇気を手放さないでいられるから。
神田と離れる勇気を。ごめんね。
愛してるよ、ゴメンね。
もうちょっとだけだけど、ごめんね。
明日からの僕は多分、嘘つきになるけど、騙されていてね。
気づかないでいてね。
僕の大好きなあなた。
……おやすみなさい)
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